初夏とラムネと眠れない夜
彼はその日、疲れがたまっていたのか5限の実験が終わって家に着くやベッドに倒れこんだ。
夜中の12時に目を覚ます。
腹が減ったな。まどろみの中でそう思った。
最近外食が多すぎて出費がかさんでいるから自炊しなくては、そう思ったがもう近所のスーパーは閉まっていた。
ふらふらと近所のコンビニまで歩いていく。
普段は24時間営業なんて無駄だろ、などと色々なところで吐いているくせに都合のいいときだけしっかり利用するのが彼の悪い癖だ。
少しきれいなお姉さんがパスタコーナーの前で、今晩の糧を決めかねていた。普段の生活に異性の影などない。こういうところで自ら出会いを作らなくては…話しかけようかと思ったが止めた。冷静に考えろ、お前のような奴に話しかけられたら怖い。
踵を返して、インスタント麺のコーナーへと足を運ぶ。彼にはこちらの方がお似合いだ。いつものようにカップヌードルBIGを手に取る。今日はこっちにしようか…期間限定の味噌味にした。
ふと、缶飲料がたくさん陳列してある冷蔵庫を見ると、期間限定のラムネサワーが一際光って見えた。そうか、もうそんな季節か。夏に何か思うところでもあるのだろうか、明日も一限のくせにストロング缶を手に取る。
先ほどのお姉さんを尻目に、気休め程度に蒸し鶏サラダを手に取る。ドレッシングは別売りだが家にあるポン酢で誤魔化すことにした。
レジに立つ、もはや顔馴染みのきれいな禿頭の店主に商品を手渡す。
ーあと、86番ください。
ーいかにも。
ーパネルのタッチをお願いします。
「カードで。」と言いたいが為だけに最近作った、ソフトバンクのプリペイドカードで会計を済ませて店を出た。結局1000円を超えてしまったからラーメンでも食いに行った方が安くついたなと少し後悔する。
夜風が心地よかった。ストロング缶のフタをプシュッと鳴らす。ゴクリと喉を通ったその液体はラムネ味とは言い難かった。殆ど合成甘味料とウォツカの味ではないか!だが、それもまた一興である。
アルコールの所為か彼の気質の所為か、家に着くまでの100メートルほど、昔のことを思い出す。高1の頃の夏はこうであったとか、高3の夏はもう嫌だとか、去年の夏に引き起こした事件だとか…
あの時、こうしていれば あの日に戻れれば あの頃の僕にはもう戻れないよ
好きなバンドの歌詞が思い起こされた。
もうさよならなんだ。
家の前で先ほど買ったメビウスにそっと火を点ける。マンションの廊下の蛍光灯は彼の部屋の前だけ切れてしまっていた。
やれやれ、何のために地元を捨ててここまで来たんだろう。いや、そんなこと考えても仕方がないか。
目覚めたくないと思う朝が増えたのはいつからだろうか。
嫌なことなんて忘れよう。そう言って、少し残ったスクラロースサワーを飲み干す。
やっぱり9%は少し重かったか。
今週のお題「家で飲む」